3部構成から4部構成へ。第4部は母のパートにする。
モチーフ「二重螺旋」はやめる。新しいモチーフの候補は「言語」だけど、イマイチしっくりきてない(もうちょっと具体的な象徴に落とし込みたい)
(ここはあんまプロットとか堅苦しく考えずに情緒的に書きたい)
肇が言うには、愛のない二匹のマウスの血液が固結し、互いの身体を拒み、死んでしまうらしい。それは本当に愛の仕業なのだろうか? 私には信じられなかった。愛というのはもっと抽象的で、目に見えない。身体と脳の間に深く絡み合った何かなのだ。
それはもしかすると、言語なのかもしれない。身体と脳とが語り合う言語。そのやりとりがうまく行かないとき、意識は身体が何か別のものであるかのように感じる。根本的に話が通じないときには、身体が脳を殺してしまう。
律己が私のことを許さなくても、しかたがない。自分が悪かったのだ。二人の息子の人生を左右できる立場にいたにもかかわらず、決断を肇にまかせていた。そのツケを今支払わなければならない。これまでの罪を償わなければならない。この十五年間忘れ続けてきた愛を取り戻さなければならない。
脳と身体との間に生じた断絶を感じ続けてきたのは、決して篤己だけではないはずだ。律己だって同じ状況に置かれていたのだ。
その両者の間を取り持つ言語があったとして、私の言葉は、何かの役に立つのだろうか。いや、役立たせなければならない。
私は律己の被っている布団を剥いだ。律己の上半身に刻まれた大きな傷跡が目に入る。律己の——かつては篤己の——鋭い眼光が私を貫く。
「これくらい、なんてことない」
「いい? 律己。これはあなたの身体じゃない。私たちの身体なの。たとえ篤己があなたを傷つけようとしても、律己がそう願ったとしても、私がそうさせない。許さない」
彼の細い腕を掴もうとした私の手は、すぐ振りほどかれる。
「身勝手と思われても仕方ないよね。ごめんね、もっと早く気付くべきだったのに」
「僕はあなたの謝罪なんて信じない」
律己が言葉を返してくれた。そのことに私は高揚している。律己の内側に、より堅牢な言語が編まれていく。
私は確信する。私の言葉が律己に伝わるのならば、私の言葉が律己の体内を駆け巡る語彙に変わることを。